デジタルマネーライブラリー

このスマート社会において情報は、場所やモノに縛られない状況を実現しはじめています。そんな情報にこれからは価値あるインターネット「IoV」(Internet of Value)が求められると考えています。本ブログでは、そんな「IoV」に影響する仮想通貨について色々な観点から紹介します。

セブンイレブンのATM戦略から考えるサクセススキーム

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2000年頃「コンビニでお金を引き出せたら便利」がきっかけでセブンイレブンはATMの設置をはじめた。

まず、銀行との提携でこの事業に参入しようと考えた。しかし提携だと、ATMが設置銀行の出張所扱いになり、サービス内容を自分たちで決められないなど、自由にならないことが多いため銀行業の免許を採る方針に転換した。

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銀行のネットワークに加盟できない!!
セブン&アイ・ホールディングスの前身であるIYグループは、2001年にアイワイ・バンク銀行を設立した。

銀行業の免許を取れば、金融機関各社が加盟している「統合ATMネットワーク」に加盟できると考えたのである。しかし、手数料が一方的に流れると考えられ、ネットワークへの加盟は認められなかった。そこで自力でネットワークをつくり、それを直接金融機関に繋げざるを得なかった。他行のように預金獲得や住宅ローンで競争するのではなく、他行と共存共栄できる「共通インフラ」のATMを提供するビジネスモデルとした。結果、2003年度には単年度黒字を達成、2005年には累積損失を一掃し、セブン銀行に改称した。さらに2007年度には、全国すべてのセブンイレブン、イトーヨーカ堂セブン銀行のATMが設置された。

 

自由な手数料がATM展開のミソ!!
セブン銀行のATMは、地域の金融機関との提携があって成り立っている。地域の金融機関は、セブン銀行とATM利用の提携をするだけでなく、ALSOKがセブン銀行のATMに補填する現金の調達を担っている。

他社のキャッシュカードを使ってセブンのATMで現金を引き出すときに、顧客受入手数料を金融機関からもらうが、セブン銀行がユニークだったのは、引き出した客が金融機関に払う手数料を、各金融機関に任せたことである。引き出しにかかるATM利用手数料は昼間100円、夜間200円が標準的であったが、各金融機関はどのように価格づけしてもよかった。

 

特異な「 売上金入金サービス 」とは!!
セブン銀行では、企業向けの「売上金入金サービス」がある。店舗などの売上を、専用カードを使ってセブンのATMに入金するサービスである。専用カードによって入金された現金は、企業ごとに即時に1つの口座にまとめられ一括で資金管理ができる。企業は現金保有のリスクから開放され、特に夜間営業の企業にとっては、銀行の夜間金庫替わりになるメリットがあった。当初、売上金入金サービスは、セブンイレブン店舗の売上の入金から始まった。これによって、特に夜間における防犯に役立った。次第に夜間営業の店舗や、ガソリンスタンドなどに広がり、タクシーの運転手にとっても、なくてはならない存在となった。
また、コンビニATMを利用する消費者は圧倒的に出金の方が多く、入金しないと紙幣がなくなってしまう。しかし売上金入金サービスのお陰で、セブンイレブン内のATMは月1回ほど入金すれば良いという。入金者にはセキュリティを提供する一方で、その入金がセブン銀行の資金調達コストを大幅に下げているというビジネスモデルなのである。

 

後発のメリット!!
訪日客が増加に連れ、国内で現金を引き出すニーズは高まった。VISA、マスターなどのクレジットカードの磁気ストライプが、日本の金融機関のキャッシュカードと位置が違っていたことから、多くの金融機関のATMでは、現金が引き出せなかった。しかしセブン銀行のATMは、最初から磁気ストライプの違いを考慮して設計されていた。

また、海外送金サービスも積極的に進めている。海外の企業と組んで、セブン銀行のATMから手軽に送金しすぐに海外でお金を引き出すことができる。既存の銀行の営業時間では、日本で働いている外国人は銀行に行けず、このサービスは大変好評である。

 一般に日本の銀行は、その地域に住んでいる日本人、日本法人を顧客と考えているが、セブン銀行では、「その地域のセブン-イレブンに来店する人」を顧客と考えている。そのため、海外送金サービスも自然に出てきた。

 

セブン銀行の根幹とは!!
セブン銀行のビジネスモデルの成功ポイントをまとめると、次の5つになる。

 

第1は、銀行との提携ではなく、自ら銀行業の免許をとったことである。当初の計画通り提携で参入していたなら、今でもATM設置銀行の出張所扱いのままであり、戦略の自由度は大幅に制限されていたであろう。

 

第2は、統合ATMネットワークへの加盟が認められなかったことである。これも当初の目論見が崩れた点であったが、自前でネットワークを構築せざるを得なかったことが幸いした。例えばセブンのATMは、金融機関のカードを挿入すると、その金融機関の画面に切り替わるため、消費者にとっては取引金融機関以外のATMでお金を引き出す不安感を払拭できた。

 

第3は、後発であったことから、海外のカードも読み取れるATMを最初から設置でき、これが国際化の引き金となったこと。

 

第4は、顧客の定義が「その地域に住む日本人」ではなく、「その町のセブンイレブンに来る人」であり、国境を越えた顧客ニーズへの対応が進められたこと。

第5は、最も重要な点である。出金の多いコンビニATMにおいて、紙幣の調達コストが極めて安いことが挙げられる。売上金入金代行サービスを始め、見えない部分でローコスト・オペレーションをできる仕組みが組み込まれていた。


我々はビジネスモデルと言うと、つい外部から見えやすいマーケティングの部分に着目しがちである。セブン銀行のような見えない部分にこそ、持続的に収益を上げる仕組みがあることを忘れてはならない。